[会場に辿り着いた時は、もう開演まで時間があまりなくて。
急ぎながらスタッフの1人を呼び止めて、リボンのついた小さな包みを渡した。]
……あの、これ。
七五三涼介さんに、渡してくれますか。
[その包みの中には、差し入れのクッキー。あたしが手作りしたもの。
舞台関係者は差し入れで甘いものをよく貰うって聞いたから、ちょっと工夫をして甘すぎない塩バニラ味に仕上げた。
クッキーだからある程度の保存も利くはず。
包みの中には、一緒にメッセージカードも添えた。
――『素敵な夢を見せてくれて、ありがとう』、と。
お願いします、とスタッフの人に頭を下げて、返事を待たずに客席へと駆け込んだ。
その時のあたしは焦っていたし、気持ちの問題もあって、涼介くんと顔を合わせることは避けたかった。
メッセージカードにあたしの名前は書かなかったし、スタッフの人に名乗りもしなかった。
差出人不明のクッキーは、涼介くんのところに届いたかどうかは定かではない。*]
(235) 2015/07/09(Thu) 21時半頃