―回想―
[ハープの音色はヤニクの意識をここでは無いどこかへ連れ去る。
おぼろげに…幼い日にラクダで砂の海を渡っていた頃…。
両親が生きていて、まだ何の罪にも手を染めていない人だった頃。夜の冷える砂漠は火が必要で。野営の時にはたき火を囲んで熱い茶が回され、音楽と昔話と踊りと歌があった。大きな手に包まれて庇護され、安らぎを感じていた夜…
それは…その後二度と戻らぬ時となり、目の前の現実には無力な幻となり、やがてすっかり忘れてしまった記憶。
オスカーのハープはそんな遥か昔の記憶を呼び覚ました。
ぼんやりと、夢をみるように、音に身をゆだねる。
…やがて曲が終わると、夢から醒めたように現実へと戻り、身を起こした。そしてオスカーへ声をかける]
…面白い。悪くない。
おまえ、何が怖い?
ここで恐れるのは何だ?
[怯えたエサが要求していた事は何だったか…>>174「こんな酷い事もうしない?」そう言っていたような…
何が酷い事なのか、皆目見当がつかない。けれど、非難の声音は何かを避けたいと告げていた。好奇心のままにエサをどう扱って良いか決められる、そんな自由もヤニクには楽しい事だった]
(227) 2014/01/26(Sun) 10時頃