― 回想:痛すぎた青春(3) ―
[そしてその日。
メイドマッサージもとい、メイドリフレクセラピーの店。「キャット」という看板のその店の前に、「私ではない」私は立っていた。
パンダどころじゃない、極端に広く真っ黒なアイシャドー。深い紅のリップ。当時から伸ばしていた黒髪は三つ編みにはせず、ワックスで幾つもの束を作って毛先を針みたいに尖らせていた。
後で知ったのだけれど、この時私が参考にした表紙の雑誌は、V系ロックを専門に扱う本だったらしい。
服装だけは真似できず(家になかったから)、時雨女学院の制服をそのまま着てきてしまった。
舞台役者みたいに別の誰かになりきる力はなくとも、姿だけでも「私」ではないものにできれば違う筈だと、私は信じた。]
あの、すみません……。
わた……オレ、このお店、初めてなんだけど。
[深呼吸してから、店内に踏み入った。
言葉遣いの演技は、正直下手だったと思う。
それでも目の前に居るのが「琳田真輝」だと気づく者は、まずいなかっただろう。]
(218) 2017/01/30(Mon) 21時半頃