[小太郎と伸睦の声を半ば聞き流しながら、鷹船と共闘した戦場でのことを懐かしむように思い出す。
鷹船の槍が一撃必殺を旨とするなら、景虎の刀は柔でも剛でもなく駿だ。
身体の小ささや非力を補うように、鞭のように関節剣を自在に振るい、戦場に無数の赤い曲線を描く。
その日も桜色の唇は楽しそうに弧を描き、軽やかに戦場を舞っていた。
そこへ「共にやろうぞ」>>190と声をかけて現れた伸睦に、「置いて行っても知らないよ」と、鈴を転がしたような声で景虎は答えた。
戦場で誰かに背を預けたことは一度もなかったが、槍の穂先と剣の刃が触れ合うギリギリの間合いで過ごしたあの時間は、景虎の胸に敵将と命のやり取りをする瞬間とはまた別の高揚を刻んだ。
あの瞬間、目に焼き付いた槍の煌めきを思い出せば自然と胸は高鳴るが、その高揚は遠くから響いた名乗りを上げる声>>に現実へ引き戻されて終わる*]
(216) 2015/05/17(Sun) 23時半頃