─ 昔語り ─
[悪魔が呼び寄せられたのは、呪いを受ける前の夕月の退魔師の手によってだった。
どれくらい前なのか思い出すのも面倒なくらい、昔々の事だ。
夕月の退魔師と、異国の魔術師との間の子であった使役者は深い茶色の髪と澄んだ翠の瞳を持った青年だった。
和服に異国の血が混じる、やや彫りの深い顔立ちの退魔師の青年。その奇妙さに、まず悪魔の興味が惹かれた。
次に悪魔の興味を惹いたのは、青年のつがいであったまだあどけなさを残す少女めいた女だった。
退魔の仕事がない時に、女は悪魔に家事を手伝わせた。
退魔の力なぞ持たない、普通の女だった。が、悪魔だという己に物怖じせずに、ありとあらゆることを共有する様に押し付ける様に、苦笑と同時に覚えたのは親しみだったか。]
──嗚呼、なつかしなぁ。
[かつてのこの屋敷であった事。
柔らかく笑う主と呼ぶべき青年と、その伴侶の女。二人の笑顔をわずか後ろで見ている日々は、悪魔にとっては悪くないと思える日々だった。
思い返すたびにその青い双眸を細め、遠くなる記憶を紐解けば、同じ言葉が口をついて出る。
もっともその言葉は、時が経つ程重みが増していったのだが。]
(215) 2015/01/21(Wed) 21時半頃