[―――生きている。
彼女は気を失っては居るようだが、身体を貫いた閃光の痕は何処にも残っていない。落命誘った大穴どころか、細やかな創すらも。
怨嗟に汚染された後遺症も見えなければ、疑問の色は濃く変わったが、自身では妄想の範疇を出ない。
自身の身体も傷一つ無く、近くには二振りの剣が使い手を待って突き刺さっていた。
此処が冥府の門前とは到底思えぬものの、少なくともカルバリの丘ではないようだ。
軽く腕と肩を揺らして関節を鳴らすと、主人の膝裏と背に腕を差込み、軽々と抱え上げた。]
―――命在っての、と申しますが。
つくづく、運命が貴女を放っておきませんな。
無論、この不肖ハワード、お付き合いいたしますぞ。
――――……何処までも。
[囁いた声は彼女に届いただろうか。
視界の隅で黒蝶が、雨を翅で弾いて悠然と舞う。
雨靄の向こうに見えるのは、閑静な洋館。]
(212) 2014/07/12(Sat) 16時頃