[傲慢な娘は今は冷たい死骸となっていた。
舌先は取り出され、放られてしまっただろうか。
声帯ならば、刻まれただけなら回復するだろう。
しかし舌が戻らねば、上手く物を飲み込む事も発音する事も叶わない。
────もし、相手が冷静であったならば、今こそ声帯を成す部分を取り出して完全に声を失う道を辿っていた事だろう。
そうでなかったことばかりは、娘にとっては幸いか。
────いや、本来ならば。
こんな場所で自ら命を絶つ事も
厭う男の腕の中で命尽きた事も
その後に抱き上げられ、骸とは言え連れられていく事も
娘にとっては決して幸いなどではない。
しかし瞳を閉ざし血の気を失い命尽きた今では、その自尊心ばかりは保たれた
この、短い間だけは。
その冷たい骸に温もりが再び宿るのはいつ頃か。
傷口は口内にばかりあったから、その癒えていく様は見ようとしなければ見えなかっただろう。
暫し娘は、漆黒の安息の夢を見る────]*
(203) 2016/02/28(Sun) 01時頃