[ 壁を離れれば、ブレーキのない身体は行き先へ辿り着くだけの装置に成り代わる。
たとえ勇気が徐々に萎み始めても、話しかける最初の言葉を決めていなかったことに気づいても、それが重りに加担することはない。
心許ない準備に不安を覚える手が伸びてきた黒>>188を咄嗟に掴んだのは、無意識に近かった。]
わあ。
[ それが腕だと気づいたのは、声の主がその先にいるのと見とめてからだ。
一度、二度、緩やかな速度で目蓋を上下させると、驚いた様子の声を上げる。]
あ、ありが とう。
とまれない から、 たすか った。
[ 朧でゆったりとした声でお礼を告げる。
挨拶。お礼。ちゃんと言えた。
少しだけほっとした様子で手の力を抜く。そうしてようやく、掴まっていた硬質な腕の感触に気づいたのか、視線を落としてその形を興味深そうに見つめた。]
(194) 2020/08/24(Mon) 23時頃