[ふわりとした上昇感に足元が揺らぐ。高速エレベーターはあまり得意ではない。かといってナナの手を握ったのは、怖かったから、ではない]
あなたと一緒だと……
慣れた場所でもなんだかどきどきする。
[女の赤い口唇は愉し気に弧を描く。
もちろん心配ではあったのだけれど、
新しい場所へのナナの反応はそれはそれで楽しみで、その表情を見ていたい。
エレーベータ―がフロアに着けば、
深々とした礼と共に出迎えるのは黒服だ。
ギリアンのような強面の男たちがぞろぞろとついてくる]
私が来ても、することなんて余りないのだけれど。
[天井は高く、造りは豪奢だ。
夜の魔法のまやかしめいて薄暗い店内の灯りは、瀟洒なシャンデリア。大理石のテーブルに、天鵞絨のソファ、贅を尽くしていながら落ち着いた社交の空間に、耳に留まらずながれていくピアノのアルペジオ。着飾った夜の蝶たちがひらりと舞う。統一感のない猥雑な街も見下ろしてしまえば、その夜景は宝石箱のようだ]
(192) 2017/10/12(Thu) 00時半頃