[ああ、うるさいなぁ。漠然とそう思った。
勉強したところで、あんたたち、俺とそう成績、変わんないじゃんね。
案外作業が大がかりで、めんどくさくなってきただけでしょ?
冷めた気持ちで、そんなことを思う。
たぶんきっと、辛辣なことを思っているという自覚はあるから、口にはしない。
『言い訳を使って逃げる奴は、その言い訳がなくなったとしても、やらないんだよ』
誰かがそんなことを言っていたのを思い出す。
強くて艶やかだった、"彼女"の言葉だ。す、と目を細める。
教室の奥、一生懸命に作業を進めている、小さくて赤い背中が見えた。
扉の近くで話していた男子生徒たちの声が、彼女にまで届いたかどうかは、分からない。
ただ、必死に手を動かしている姿は、申し訳なさも手伝ってかいつもよりもなお小さく見える。
秋野は、男子生徒の脇を素通りして、彼女──万里しずくに近づいて、声をかけた。]
(190) 2015/06/18(Thu) 18時半頃