―回想・早瀬家とのこと―
[高校生になり、授業が始まる最初の日。
自己紹介を聞いて、印象に残ったうちの一人が早瀬だった。
平凡な自分からすれば相当に異色な経歴と夢を持ったそれは記憶に残り、夕食時の他愛もない会話で母親へ告げる。
早瀬と同じクラスになったことを知った母親が驚いていた。
―――アンタ、昔一緒に遊んだこと覚えてないの?
それは幼稚園に通っていたあたり、記憶などあるはずもない頃のこと。
ウチは、今は店頭販売のみの豆腐屋だが、昔は配達もしていた。
定期的に配達している家のうちのひとつ、それが早瀬家だった。
幼稚園の教室にあったオルガンの前にいつも陣取っている級友がいた。
確かにその子には何かとちょっかいを出していた気がする。
何か弾き始めれば一番に傍に行って、良く動く手元を眺めていた気がする。
その名前も顔も、覚えてはいなかったけれど。]
(186) 2015/03/30(Mon) 00時半頃