……目が、見えておられないのですか?
[気づいたことは、それだけではない。
男は、手袋越しの両手から得られた情報を、一つひとつ読み解いていく]
体温……およそ24、いや、23か。脈拍極微弱。
生体反応を維持することは極めて困難と思われる。
仮に起こり得るなら仮死状態――――いえ、それならばこれだけの活動は不可能なはず。
ならば、生存は絶望的と判断。
俄には信じがたいが、通常の生態活動とは別の法則で運動を行っていると推測される。
[なぜ、動いているのかはまだ分からない。
ただ、生物に携わる専門家としての理性が、ティモシーの現状を己に伝える]
自我は喪失し、捕食の本能に突き動かされている模様。
そのためなら教え子も――――まして『元教え子』を襲うことなど、厭わない。
……あれだけ、優しかったティモシー先生、でさえも。
[細めた目に映る、老いた男。
その姿が、この道を進むきっかけとなった、18年以上も前の恩師の姿と重なり、奥歯をぐっと噛みしめた]
(184) 2011/12/02(Fri) 03時頃