[月の光があったから、何も見えないわけではない。
代わりにまっすぐ伸びた廊下の先や窓の向こうが映し出されて、おばけでも見えてしまうような気がした。
ひとりの静けさは好きじゃない。まして、それが夜となれば。
うずくまって、「やさしい」兄の名を口に出して。
迎えが訪れるまでそう長い時間が経ったわけではないけれど、待ちこたえるだけの間は、長い悪夢のよう。]
──… っ、
[そうして足音すら聞き逃す緊張感のさなか、不意に声が振り落ちる。>>178はっとして顔を上げ、振り返るやいなや独りきりの悪夢から引き上げられた。
よろめきつつ忽ち笑顔になる。シメオン、と言いかけて安堵したように見やり。けれどそれが笑っていないのをみれば、すぐに表情は翳ってしまう。]
ご、ごめん……
[不安げに視線を落とした。きつく叱られた訳でもないのに、ぴくりと身をこわばらせて。
口にした謝罪は泣き出しそうに震えたもの。突き刺さる感覚に「いたい」と零すこともできず、眉を寄せきゅっと下唇を噛んで。]
(183) 2017/10/08(Sun) 18時頃