―回想―
[万里しずくは、自分に自信のない子だった。
いつでもびくびくとしていて、相手の顔色を伺う。相手に嫌な思いをさせまいとするあまりに、相手を辟易とさせた。すぐに謝るし、すぐにパニックになる。要領も悪い。その結果、友人などいないし、いじめられる事も多々あった。髪を引っ張られ、泥の上に突き飛ばされ、プールでは足を引っ張られた。
そんな万里しずくには、自信などない。
ただ一つだけ。兄がいることだけは、…の自慢だった。
かっこよくて、優しくて、いじわるな時もあるけれど、いつも味方でいてくれる兄。
母子家庭で母はいつも仕事で不在だったこともあり、…には兄が全てだった。
学校のいじめっこたちとは違う。唯一、自分の味方であると信じられる存在。
…は兄が大好きだった。
その大好きが変わったのは、たぶん、高校生の頃。
唐突に気付いたのだ。これは、この好きは、もしかして。
いつしか、万里しずくは、兄に恋していた。
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(180) 2015/06/21(Sun) 01時頃