― 少し前・調理場 ―
[「覚えてなくて」という香取先輩>>133には、「気にしないでください!」とばかりに首を緩く横に振った。覚えてなくて当然で、それでも確かに不思議な縁があるみたいだった。
……本当に、不思議な縁だ。
先輩>>141の話から、彼女の店に置いて貰っているだろうことが知れた。
自分の作品を置いて貰えているだけでも、もう、嬉しいどころの話じゃない――というのは作家の性でもあるかもしれない。
というか、香取部長のカフェ、あるんだ。
恐縮からのうわの空でそんなことを呟き掛けた時、先輩が告げたひとつの名前に、私は瞬いた。]
マエカワ――ああ、前川さん!
そっか、先輩だったん、ですね! そっか……
[動揺の名残が微妙に滲んだたどたどしさで、けれど私は、緩く笑んだ。]
……「王子様」なんかじゃなくても。
私にとっては、素敵なパティシエでしたから。
[それだけは、偽りなく伝えた。]
(178) 2017/01/30(Mon) 12時頃