[病院の中が世界のすべてだったあの頃。
"リーンティア"と姓を呼ばれることが苦手だった。
女の子のような可愛らしい響きと肩に着くほど伸ばしていた髪のせいで病室に冷やかしにくるヤツが絶えなかったから。
どうしたらいいのかわからず来る人すべてを睨みつけていた時期もあった。
それでも、その内に入り込んで親しくしてくれる相手もいたのだ。
どんなに固い殻で身を守っていても、その内に踏み込んだ相手には役に立たない。
殻を被ることを忘れてさせてくれたその人は僕の世界をどんどん広げてくれて。
退院する頃には誰とでも笑って話せる年相応の明るい少年になっていただろう。
でも今は、あの頃とも異なる殻を作ってしまった。
そうやって普段から注意しなければ足元を掬われてしまう。
あらゆる罠が待ち受けている実力主義の世界でも、常に上位でなければ音楽という特殊な道は絶たれてしまう。
コンクールの成績で自分を売りこまなければ……。
奨学金や特待生などというものは学生の間だけの特権なのだから]
(178) 2010/09/15(Wed) 19時頃