[滞在時だって毎日乗るわけでもない路面電車に、愛着を持ち始めたのはいつ頃だったか。
幼い時分に乗っていた車両に別れを告げ、新しいそれを運びいれる仕事についたからか。窓から臨む海を閉じ込めた、小さなキャンバスを見つけたからか。
歩いた方がいい、なんて思っていたのはかつての話。
車掌の会釈に頷き返し、降りた背中に警笛を聞く。
オレンジの屋根と、青い空。
白い雲に赤い電車。
とても言葉に尽くせない海。
瞬きの間に目まぐるしく変わるそれらを捉えた、色彩。
最初は、絵描き当人は目に入らなくって、不思議と惹かれる絵を、その理由を知りたくて見つめたものだ。
持ち帰り家に置いたそれは、陽光を忘れれば輝きは薄く。
それがまた不思議で……、
一等陽当たりの良い場所を陣取った小さな一枚。
その前に荷物を置いたら街に出ようか。
今度は歩いて。目的地を知る魚のように]
(177) 2019/07/27(Sat) 00時頃