― 談話室・奥の壁 ―
[ 談話室を横断する間、前進用のジェットパックに合わせて、足元から低い音が響く。腰にぐるりと回ったハーネスの先、ローラー付きの重りが鈍く光っていた。
遠い昔、罪人が足につけていた鉄球に似ているが、それとは反対にこれは重力下での自由を得るために必要なものである。]
ふう。
[ 重力下での生活実験。それが己に与えられた役割だ。
とは言っても移民船内では具体的に課せられた内容はない。
ただ、生きて。それだけでいい。
無茶をおっしゃる。
ならば、全自動歩行マシンでも与えてくれればいいものを。
義肢も義体もヒューマノイドだって当たり前の世の中、時代錯誤な不便さを強いられるのは実験が故と受け入れど、談話室へ辿り着くまでパズルのように廊下を行き来した時間は帰ってこない。
対角線の壁に手が届くと、小さくため息をついた。
種族によっては末端にごく僅かな痺れを齎すガスが、外部を守る為のフェイスカバーを曇らせる。]
(175) 2020/08/24(Mon) 21時頃