ザックさん。ちょっと待ってください。
[たった今、この部屋を出ようとしていた生徒、ザックも声には気づいていたのだろう。
すぐ戸口で立ち止まっており、男の呼びかけに対し怪訝そうな顔で振り返る]
……一度、こっちに戻ってください。
いえ、その、聞こえますよね? あの声が、ちょっと気にかかっていて。
あっ! 戻って…………っ!!
…………行ってしまいましたか。ザックさんは好奇心旺盛ですからね……。
[むしろ、声の方に関心を抱いてしまったのだろう。
野球部に所属するスポーツマンのザックは、一目散に駆けていく。
気にはなったものの、男にとっても遠くから聞こえる悲鳴は、まだ対岸の火事の状態だ。
残った生徒達を放っておくことも躊躇われ、彼の逞しい後ろ姿を見送ると、そのまま生物学教室へと戻っていったのだった]
えーと、すみません。今、残っているみなさんは、テストが終わっても外へは出ないようにしてくださいね。
……そんなこと仰らずに、お願いします。
―惨劇の予兆・生物学教室・了―
(170) 2011/12/02(Fri) 01時頃