― 回想:「王子様」の涙>>147 ―
[その時私の目の前に居た「王子様」――芦屋先輩がその場に座り込んでしまったことに気づき、私は慌てて駆け寄った。先輩の恰好だなんて、気にしていられなかった。]
ちょっと、大丈夫ですかッ、せんぱ ……
[弱っているのかもとは思っていても、大粒の涙まで目の当たりにしてしまうと、流石に咄嗟に掛ける言葉が出てこない。
うろたえながらも、先輩の言葉のひとつひとつを、聞き拾う。]
………うん。
私も、辛いです、から。
[私は、ただ、ただ、短い言葉で思いを伝えた。
私の目にも雫が滲んだ。まるで涙を貰うかのように。
木屋先生が亡くなったこと。
亡くなって「た」という言い方からすると、ここに来て初めて知らされたのかもしれない。
今の先輩や、華宮さんたち程に、初めて訃報を受けたあの時の私は泣けなかった。
止め処無い涙を、少し、うらやんでしまう。]
(168) 2017/02/01(Wed) 18時半頃