― ホール ―
後で、頂くわ。
[ローネインの言葉に、ゆるりと頷いて答えた。
先約がおありではないの、と、口には出さずにちらりとナトリーを流し見る。
先刻のやり取りの、声こそ聞こえなかったものの。
ヘレナとてここに入ってもう長い。若い彼らの数少ない娯楽がいかなるものかくらい、とうに知っている。それを見咎める程、彼女は潔癖でも信心深くもない。そもそも、入ったばかりの頃は彼女もその"娯楽"の贄にされたものだ。
――一瞬の、記憶の再燃――
既に居なくなって久しい男。あれはこの塔の暴君であった。
いったい何人の灯台守が、あれの贄にされただろうか。
――そして、再度、封印――
ともあれ、ローネインは無骨な男だが、味覚は確かだ。多少、大雑把なところはあれど、彼が旨いと言うものに、外れはない。感覚が似ているのかもしれない。]
…そうね、貴方のご都合のよろしい時に。
(168) 2012/03/22(Thu) 19時頃