ありがとう、ございます。
ご期待に添えるよう……全力を尽くします。
――が。
僕は「ご機嫌取り」なんてした覚えはありません。
あなたは、個人の気分を仕事に差し込まない。
……、
[感謝を伝える一礼で応える間は押し殺したが、続いた言葉と毛布を指す手には、やや険しく表情を強張らせた。とりわけ負の感情が表れにくい凪いだ表情にありあり浮かぶ、静かな怒り。
言われるまま毛布を取り上げたりはしない。
ただ、ジェームスの顔を見つめる目を細める。
反論は絶え、言葉に詰まった。
確かに、取引相手への接待はビジネスの面では大切なもの。それ自体は否定しない。手土産に、ジェームスが好みそうな菓子を選んで持って行ったこともある。とは言え、彼のために買い求めた毛布は違う。紅茶の缶も。遡れば、あの雨の日に翳した傘も、ジェームスの足元を守るライトの光も――好意だ。
好意のつもりで差し出してきたのに。
微かな怒りは変質し、表情が悲しみに翳る。]
(166) 2015/11/18(Wed) 00時半頃