― →廃病院・五階 ―
[簡単に拭いただけの髪からは、ぽたぽたと雫が落ちるまま。
用意されていた辛子色の和服は着方も分からず、肩から掛けるだけになっていた。肌を隠すこともなく、部屋の前に辿り着いた。]
……直円さま。
[そう声を掛ければ、すぐさま入室を許可する声が返ってくる。
ぐ、と扉を押し開ければ、掛かるのは穏やかで優しい、主の声。
掌が下腹の上を這い、びく、と身体が震える。
じんじんと疼くようなそこがどうすれば満たされるのか、己はよく知っている。
しかし、欲しいのは己を惑わせる熱だけでは、なくて。]
……直円、さま。
助けて ください。怖い。 苦しい、
[問い掛けに応えたのは、酷く震える声だった。
快感に埋め尽くされ、隠されていたものが、己を押し潰さんと迫ってくる。酷く心が軋む。
壊れた涙腺は、勝手に目尻から涙を溢れさせる。
直円の手を縋るように掴んで、頬を擦り寄せた。*]
(164) nico 2016/06/20(Mon) 18時頃