― オリュース市電 ―
[坂の上から港までガタゴト軌道を進む二両編成。
ある時は風景の彩りであり、ある時は市民の脚である。
流石にワンシーズン限りの観光客は覚えられないが、日々の利用者はそれなりに把握している。
特に先ほど乗り込んできた明るい髪の青年は、乗客として以外の認識も持っているので覚えやすい。ラフな出で立ちでも判別できるくらいには。>>107
彼が三年前からアルバイトしている食堂兼酒場は己と友人の憩いの場。最初に己が酒を覚えた場所だからか通い易く、そろそろ“いつもの”の符丁で塩漬けチーズとオリーブが出てくる常連ぶり。
知り合いとしては挨拶すべきだろうが、此方が仕事中である以上にジッとマーケットの準備が進む街並みを眺めていたので自重した。
年の近さを理由にして陽気に絡むのは、美味い酒が入っている時だけにしよう。]
(164) 2019/07/26(Fri) 23時半頃