[己が悦に溺れきるには、未だ未完成であるが、
鼓膜と神経を揺らす忠信を抱く声は充足を得るもの。
惜しげもなく差し出される愛し子の献身、
それは洞色の双眸すらも、細く撓めさせる。>>142]
―――…良い子だ、メルヤ。
慶べ、お前さんは果てを臨む資格を得た。
[細腕から齎される抱擁に、一等深くを貫く触腕が重い脈を打つ。
途端に迸る奔流は、今までの小波と一線を画する津波。
相手の腐敗を浚い、血液を潮含む水に転じさせ。
放埓は中核にまで至り、身体中へと拡散し、肉体を再構築する。
相手の言葉にひとつの偽りを見出さず、生まれ変わらせるのだ。
強いる衝撃に耐えかねるだろう腕に、縋ることを赦し、
体内で一頻り暴れた暴君は、目前の呪い子を完全に下す。
その証として、相手の変色残す肌からは僅かに海が香る。]
(161) 2015/08/04(Tue) 01時頃