[しかし、努めて平静に振る舞わなければならない。
先週の別れ際の微妙な空気は何度も味わいたいものではない。ついでに打つように払ってしまった彼の手も気になるが、白い手袋の包まれていて伺えなかった。
視線が泳ぎ、彼の腕の中の幼子に視線が留まる。]
ああ、
乗車体験ですね、どうぞこちらへ。
[彼の目的を理解すれば、早速先客の子供らに声を掛けた。案外素直に運転台を譲ってくれるのは彼らが良い鉄道オタクだからだ。ルールを守って安全運転。
先に運転台へと足を踏み入れると早々に壁際に背をくっつけて、邪魔にならぬようガイドを気取る。]
………可愛い子ですね、ご家族ですか?
[彼はおそらく仕事の最中なのだろう、予想するのは簡単だ。
―――― それなのに問うてしまうのは愚かさ故。
どれだけ不毛だろうと、心は落ちた先で芽吹くから。**]
(161) 2019/07/31(Wed) 00時半頃