[こつ、こつ。いつのまにか居なくなっていた足音が、白い布を抱えて帰ってくる。>>98
音の前に目を瞑れば、蘇るのはたくさんの書籍の香り。
( ああ。ベネットさん…… )
血に汚れた衣服が、さっきまで聴いていたことを真実だと物語り
もの悲しげな暗い瞳が、彼の抱えた決意を映すようで。
得られる情報量に くらり、目眩に襲われながら
血とアネモネの朱い花畑に横たわる「彼」が抱き上げられてゆくのを見つめた。
サイラスはすぐ傍に居るけれど、胸はぎりぎりと痛んで
血の足跡が彼を遠くへつれていく。
きっと、見えなければこれほど辛くはなかったのだろうに。
( ………さようなら。 )
音を紡がず投げた別離は「彼」へか「此岸」へか。
サイラスの腕の中に身をうずめながら見上げた彼は、同じように顔に陰りを浮かべていて。
わたしはそんな彼の気を引くように、小さく頬にキスをした。]
(155) kanko 2015/05/26(Tue) 18時頃