[生まれ落ちた一冊の歴史書は、朱の姫君に抱かれて。
始めは、小さな体で彼女のドレスを追い掛けて。
次第に目線は近く、やがて追い越して。
彼女はずっと変わらぬまま。
恋心を抱いた事も、無かった訳じゃない。
けれど、自分の容姿の年齢が彼女を大きく超えてからは該当項目を黒く黒く塗りつぶし、朱の復元典《本人》に読まれぬよう破り捨ててしまった。
そうして長い、久遠の時が過ぎて、
通常の歴史書《イストワール》よりも随分長く《存在》出来ていると気付いた頃。その時初めて、自分の期限が彼女に引き伸ばされていた事に気付く。
自惚れてしまっても、良いのか。
彼女にとって自分が大切な存在であると、引き伸ばしをしてまでも、傍に置くことを望んでくれているのだと。
今は、自分の歴史書としての役割など遠く忘れて、幸せな勘違いだけを噛みしめて居たい。
そして、本の寿命の許す限り、ずっとそばに居られればいいと。
そう思っていた。]
(154) mzsn 2014/11/27(Thu) 00時頃