[無知で奔放な振る舞いを叱られた記憶はない。それが行儀の悪いものとも知らず、顰めた表情の変化にも気付かず、彼の手でおかわりがないと分かると今度は自ら手を伸ばす。]
今は?ちがうの?
こんなに何でもあるのに。
[心底不思議がるように零し、甘味を口の中で転がしながらちらりと主人の方を見やる。>>145銀食器を持つ手つきにはどこか重なるものがあって、それでひとりでに懐かしいような心地に襲われた。]
ゆめを見てたみたいなの。
ぼく、前にも「家族」のもとへいたんだ。
ともだちもいたんだよ。
ちょうど、シメオンくらいの。
[視線は手元に落としたまま。ぽつりぽつりと言葉にしていけば、曖昧だった輪郭が少しだけ形を帯びるような気がする。
夢の話ならいくらでも出来た。
シメオンと歳近い主人がいたこと、同じ三人家族であったこと、こことは違うビルの立ち並ぶ高い家にいたこと──…彼が聞いてくれるなら、思い出せる限りは、だけど。]
(153) 2017/10/08(Sun) 02時頃