[パレットナイフでずたずたに切り裂かれ、日蔭に放置しされた絵があった。
ぼくは破かれた紙片を丁寧に拾い集めて一枚の絵へと完成させた。何もなかった、黒く塗り潰された絵が出来ただけだった。それなのに、ぼくは目が外せなかった。その黒は描いた、言葉では表現出来ない本人の内面を描いている様で。その絵を見た瞬間、作者のこころの中を覗いたみたい錯覚に陥った。それも、ぽっかりと口を開けていた底のない暗闇に呑み込まれた感覚に近い。覗いてしまえば、最後。
人間誰しも心の奥に潜む筈の欲望や嫉妬。その心の闇が、紙の上に黒という色彩で彩られていた。
その絵から叫びが聴こえてるようだった。無機質で、光や暖かみがない。空虚な世界。光を通さない、一面の黒は彼のこころを映したようで、どうしたって、ぼくには描けない絵だった。それからぼくはずっと夢見ている。]
ぼくの絵が嫌いなのは当然だ。
だって、描いた本人がつまらない人間だもの。……怒れない、笑えない、悲しめない、泣けない。そんな人間が描いた絵なんだから。[いっそ、黒く塗りつぶされて、パイフナレットでずたずたに切り裂かれてしまいたい。]
(148) 2015/01/26(Mon) 23時頃