―回想:去年の秋―
[去年の秋はまだ周囲に藤堂芽耶の変化は知れ渡っておらず、奇異な目線を向けられることも少なかった。けれど"オレ"が異質であることは、他人と接した僅かな回数でよくよく思い知らされていた。
そんな頃だっただろうか。オレがゴローちゃんに初めて話し掛けたのは。家庭科の裁縫で彼が針で指を刺し、流れる血を見て入れ替わったときだった。]
……おい、大丈夫かよ。それ。
[眉を顰めて、彼の手先から流れる赤を指差す。それを後悔したのは困惑したような彼>>0:45の表情を見たときで、まさしく後の祭りだった。
あー、と面倒くさそうな声を漏らしてから、メイがいつも持ち歩いている絆創膏を押し付ける。付けるなり捨てるなりなんなりしろ、と。
その後、彼にはくれぐれも怪我しないようにと釘を指しておいた。理由を問われれば、簡単に事情を伝える。
まあ、事情を告げたところで、すんなり彼が受け入れられるかどうかは別の問題だったのだが。]
(144) 2015/06/20(Sat) 23時半頃