俺は……“お前たち”が、羨ましいと思うことがある。
記憶を完全に共有しない、もう1人の自分。
入れ替わって、それぞれの存在として生きることができる。
実際は、そんなに軽いものではないのだろうが。
……俺も、“昔の俺”に戻りたくて仕方が無かった。
だが、戻ってしまえば、……戻ってしまったら、大切なものを亡くしたことすらも、思い出してしまうかもしれない。
だから――“今の俺”が消えてしまえばいい。そう思って仕方が無い。
[ハルにとっては、何も知らないであろう俺の事情を口にする。
ああ、やはり、直接聞いてしまうのは怖いのだ。
だから――尋ねるのは、1回だけ。
答えが返ってこないようなら、後はもう、聞かなかったことにしよう。]
ハルは、……どうして、生まれたんだ。
[友人に対して、その存在を疑うことを。枯れたような小さい声で。
答えが返ってこないならそれでいい。それで、いいのだ。*]
(143) 2015/06/22(Mon) 22時半頃