─回想:セシルと─
[ピアニストの細い手首など振り払おうとしてしまえば容易に可能だろう。
その華奢な指を折ろうとすれば簡単に曲げてしまえるだろう。
ただ、普段は人形のような顔が、軋む瞬間が可笑しかったのだ]
何を?
僕は絵画を見ていただけだ。
なのにそんなに怒らなくてもいいじゃないか。
[だからこそ振り払うことなくセシルの言葉に耳を傾け続けた]
まるで自分の もの に触れられた子供のように怒らなくたって、君の手には余るほどの才能があるんだろうから。
[マダムが拾ってくるのはとりわけ何かに秀でていた子が多かったからこその感想。
そして彼はマダムが拾ってきた中でも上等の部類に入る存在。
マダムの寵愛を受けているような彼が何故、絵にも固執するのか、気になりとうとう口にしたのだ]
なければ彼女に出会うこともなかっただろうけどね。*
(141) 2016/07/27(Wed) 21時頃