[―――もう、皆が苦しむことも無くなる。>>73
その言葉を、老年の身はセピア色に褪せる記憶の中から掬いあげる。
自身の主が願うと同じように、嘗て口にした男を知っていた。
先の天才、ウェーズリー・フォルクバルツである。
厳しい土地で生き抜くための、力強き隣人を造り上げた男。
穏やかな日常に花を添える剪定師のような彼は、
ディステル・フライハイトの科学力を十余年は稼いだ英傑だった。
けれども、当時、ディステル・フライハイトに属していた自身は、
その言葉を頭から信じられるほど、達観していなかった。
上層部がアンドロイド事業の追い風として掻き集めた数多のサンプルデータ。その中には、当然のように自身の名があったのだ。
ディステル・フライハイト特殊工作員の肩書きを持ち―――、
レーヴェ・ロルべイアの奇跡と謳われる年端も行かぬ幼子を屠れと、密命下された“サイレンス・サーストン”の名が。]
(135) 2014/07/09(Wed) 21時頃