―停戦協定・会議室―
[窓を伝う雨垂れが外の景色に紗をかける。
主人の階級に相応しく上座に設けられた椅子を引き、
彼女に着席を勧めると己はその背後に控えるを選択。
山脈で分かつ大陸の片側、主人と共に属する神聖国家は
魔力の強さと希少性で、一生が決められる。
仮令、三等市民の出でも魔力に恵まれれば、出世の道が開け、
官僚の子に生まれても、乏しい魔力量では、下級貴族へ養子に出されるか、一族の恥部として郊外に幽閉される。
ディステル・フライハイトの建国の背景にもある選民意識は、
何百年も常識として扱われ、何の悪意も無く
老若男女の潜在意識の中に根付いている。
とりわけ、代を重ねるほどに内包する魔力量が増す貴族階級は
それが顕著であり、議場で囀られる誹謗はまだ大人しい方だ。
昨今、威勢を増す隣国に対し、焦燥も混じるのだろう。
精霊を喚び、地脈と大気から力を引き出すこの国と、火を燃やし、鉛と鉄で近代化を目指す隣国は、性質からして相容れない。]
(134) 2014/07/09(Wed) 21時頃