― 回想・しあわせの魔法 ―
[生咲 冬華。……“冬”の字が入っている自分の名前が嫌いだった。
両親が死んだあの日のことや、凍えるような寒さを思い出してしまうから。
先生はそんなあたしを見かねて、館石という名字の他に、“恋”という名前をくれた。
――いつか凍てついた心を開いて、素敵な人と巡り合って、素敵な恋ができますように。
そんな、30代男性が考えたとは到底思えないような、乙女チックな由来。
あたしのために苦心して捻り出したらしいことを知っている。
それが最初の切っ掛け。
あたしが過去のトラウマに震えるたびに、先生はそれを覆い隠す魔法を教えてくれた。
悲しいことや辛いことではなく、楽しいことや嬉しいことだけを考えるようにする、自己暗示の魔法。
そして、悲しいことや辛いことも、楽しいことや嬉しいことに変換して受け入れる、前向きの魔法。
毎朝起きてからと、毎晩寝る時に、鏡の中の自分を見つめて、その日見つけた“良いこと”を自分に言い聞かせるように呟く。
それを繰り返していれば気持ちはすっごく楽になった。
冬や雪も、本当は好きなんだって、思い込むこともできた。]
(133) 2015/07/08(Wed) 23時半頃