―廃ビル―
[血だまりが跳ねる水音に、耳が覚えている師の声。>>114>>115
壁一枚向こう、少し動けば接触できる位置に居るだろう。
しかし宿主にとっては救いの存在である筈なのに、彼の存在を近くに感じるほど後悔と恐怖の感情が湧き出て来るようだった。
今の自分の状況を悟られればまず殺され、気付かれなければ自分の存在が隊全体を窮地に追い込むことになる。
その予見に追い込まれ、負の感情が渦巻いていく。]
(これはこれで甘美ですけれど――おっと。)
[開けようとした扉の傍に、一羽の蝶がとまっていた。
こんな触手に平気で近付ける蝶など、"彼"のものぐらいだろう。
薄く笑みを浮かべて指で拾い上げると、繊細なその身小さく口付けた。
膨れ上がった不安を分け与える、お裾分けのキス。
生き物の身体に潜り込んで精神を弄ぶ魔と、悪食の獏は共生関係のようなものだ。
同胞への餞別代わりに負の感情をプレゼントして、刀を握り直した。
この、この、と力任せに何度か扉に叩きつけ、その衝撃と共に廊下に転がり出る格好を狙う。
そこから遠くない距離に、師も居る筈だ。*]
(133) 2018/02/20(Tue) 20時頃