―→ 病院の外へ ―
[男は原稿の入った大きな封筒を抱えながら、俯きがちに歩いていた。先程の姉の言葉を思い出すと、胸が痛み出す。姉は自分に包まず隠さずはっきりと外に出たがらない理由を伝えてくれた。
「あのね、勿論迷惑は掛けたくないんだけど…、雫玖と一緒なら大丈夫だと信じてるから出掛けられるなら出掛けたい。でも、自信がないのよ。少し外を散歩するだけでも身体が辛いから、あまり遠くへ行きたいと思わなくなっちゃったの…。」
どうしようもなく、悲しくなってくる。自分は何もしてやれないのだろうか。]
…やっぱり、医者なんて無力だ。父さんは、家族の一人も助けられない役立たず。くそ…。
[だから嫌いなんだよ、医者なんて。
もやもやした気持ちのまま、今度こそ大学へ向かおうと歩く。時間はまだ全然ある。今日は授業があまりなくて暇な日なのだ。もしかしたら歩いている途中で、誰かに会ったかもしれない。]
…原稿、出さないとなあ。
[何となく封筒の中から一枚原稿用紙を取り出して、文章を眺めた。そこに風が吹くと、手からすり抜けてひらひらと飛んでゆく。]
あっ、やべ!
(132) 2014/12/04(Thu) 23時半頃