――水はさ、怖いよ。
木々を押し流し、表土をさらい、残るのは不毛な岩肌だけ。
いや――その堅い岩さえ、流れにさらされる長い時間のうちには磨耗し、削り減らされていく。
行き着くところは、やっぱり涅槃。罪も業も煩悩の火も掻き消えて、無《ニルヴァーナ》に至るだけさ。
きみが取り込もうとしている霊具は、そういうものだ。
争いを鎮める力の代わりに、いつしか用いる者を無に沈めていく。
なにも代償がないなんて……あの黒薔薇が、そんなに都合のよいものを、ヒトに与えるわけがないじゃない。
[争う双方を平等に滅ぼして、それを救済《スクイ》と称する女神の、愉しげな表情が浮かぶ]
きみほどの存在なら、影響が出始めるまでは長いだろうけど――でも、寿命のないきみたちにとっては、これは。
[それでも霊具を用いるというのなら、あえて止めはしなかったが]
(131) 2015/06/10(Wed) 21時頃