―歴史書《イストワール》の記録―
[歴史書は、比較的代変わりが激しい。
それは本の寿命でもあるのだが、紙であり、人が触れる以上風化や劣化は免れない。
歴史の大変動には自らその地へ赴き、ありのままを記録し、そうして次の歴史書へと内包するページを残していく。
本達の仕事は現在を綴り、過去を伝え、図書館に訪れる者たちへの応対。それだけの筈だった。
彼《ハワード》の先代までは。
ハワードと、そう名付けられた新しい歴史書が"作られた"時にはすでに先代は居らず、代わりに迎えたのは朱色の姫君。
先代から伝えられるべき《過去》は彼女から与えられ、そして後代に伝える為の職務を失った歴史書は日の殆どを彼女と過ごす事となる。
世界を記録し続ける歴史書は代替わりが激しい。
それは本の、能力の劣化。積み重なり続ける膨大な歴史と、それによる精神の摩耗。
まだ若いうちに死に《廃棄》、産まれ《制作》、入れ替わる《交換》。
その作業を続けてこそ、原初に至る大図書館《オリジン・ビブリオテイク》と歴史書《イストワール》は長い歴史の中で形を保ち続けていた。]
(130) 2014/11/20(Thu) 02時頃