[ ――その時だった。]
「はい、これ。君のパート」
[ ピッパがそう言って、男の子にホイッスルを渡したのは。
軽妙で愉快なワルツの旋律は、子供の心をぐっと引き寄せた。自分が役目を果たすと聞けば目はまん丸に開かれ、そのタイミングを今か今かと待ち受ける。
ピッパが弦を滑らせるグリッサンドのミャーォという音色にあわせ、ピューイ、ピューイと男の子のホイッスルが合いの手を入れた。
そこに居た客たちは、突然始まった小さな飛び入り奏者との競演に手を叩いて笑った。
曲の最後――クライマックス。
投げられたチキンジャーキーに反応して小型犬が夢中で吠えれば、もう大喝采だった。
曲のラストに犬の吠え声が入ること、それが通常は奏者の発声で為されることをラルフが知ったのは後のことだったが。
客を巻き込んで大盛り上がりした最初の演奏の瑞々しい感激を、ラルフはいつでも呼び覚ますことができた。
評判の高さもあって、今では“La souris a` miel”での定番の演奏曲となっている。]
(130) 2012/12/07(Fri) 07時頃