[館に来てしばらくして慣れだした頃。ベートーヴェン、バッハ、モーツァルト。大体の名曲は制覇していた。いつもマダムは微笑み、自分を賞賛してくれる。それだけで満たされた気持ちになった。
嗚呼、自分にも彼女と同じ血が流れていれば、と。そんな狂った感情まで抱くようになっていた。彼女が語り、自分も時々目にした妹>>67や娘>>110の姿にも軽く、彼女に対する時と同じ興奮を感じただろう。
もしかしたら、挨拶でもする時に恍惚とした表情が表に出ていたかもしれない。
マダムは彼の異常な部分には気づいていながらも、それを咎めなかった。
その代わり、自分を海外へと、引き離して。縁を絶ったのだろう。
それでも、天才ピアニスト、セシル・フォーサイスという名が売れるまでに、世界に知れ渡るまでの期間を経ても。それでも彼のおかしな忠誠心は揺らがなかったのだ。]*
(128) 2016/07/27(Wed) 20時頃