[痛みと苦しみを和らげるの診療所は生に遠く、死に近い。
沢山のものを捨てた人間が辿り着く最後の場所だ。
完治を諦め、せめて穏やかに死にたいと願う人々の。
インフォームド・コンセントの観点から、自身が吸血鬼であることは隠していないが“万能”と呼ばれる治癒力を持つ吸血行為を患者らから求められたことは一度もない。
無論、どれだけ真摯に求められようと治療行為として吸血する気はないが、此処に訪れる多くの人々は既に生を諦め、死を受け入れている。
そもそも痛みや苦しみから逃れ、死に縋りついてきた人々は何処か達観しているものだ。二度目の生を受け、すり替えた苦しみに喘いでも生きたいと思うほど愚かではない。
喧噪を遠ざけ郊外に診療所を構えたのも、患者への安寧を追求した結果だった。穏やかな風が吹く場所は心に優しい。
―――― が、万人の身体にも優しいかと言えばそうでもない。>>103]
(128) 2019/10/05(Sat) 23時頃