あ。えっ?
[ワタヌキの声にハッとして、『あいり』の方を見る。
そこにいたはずの女の子は、もういない。
そして、手の中で、何かが割れる、音。>>112]
ひいっ。
[小さく悲鳴を上げる。
自分でも知らないうちに手に力が籠っていた?
そんなことはない。そうだとしても、割れる程は。
堀川は殆ど押し付けるようにして、ワタヌキに手鏡を手渡した。
そうして、女の子の去っていった扉を見る。]
ひな……ひなこちゃん……すか……。
そーすか……。じゃあなんであいり……、
いや……、いーすわ……。俺もう、あの……、
今日のところは、もう。また。すんません。
[堀川は手鏡を持ったワタヌキからじりじりと後退り、数歩の距離をとる。その片手は、無意識に、首の赤い手ぬぐいを押さえつけていた。それからその場に居る面々に小さく頭を下げて、ほとんど逃げ出すように、店を出て行った。]
(126) 2015/06/11(Thu) 01時半頃