[館に着いた時から、獣人の女とその傍らの男の違和に目をつけていた。
彼らは他の男女とは違い、どこかに不穏な空気を孕んでいたから。
それに目敏く気づいたのは、長く王宮の暗部に触れることが多かったせいだろう。もっとも、彼らの本質的な感情なんて気づけはしないけれど。
ミッシェルとヤニクの不穏さは、何らかの理由で強制的に従属されている関係性の雰囲気として男は捉えていた。
だから、それを取り除いてやろうと。味方になってやろうと。
新たな嘘を纏うために、少年の頃無心になった物語から抜け出てきたような獣人の姿を持つ女に近づこうとした。
彼女が願えば叶えるために、己の剣を揮う心算で。
それは悪戯好きとして子供の頃よく母から叱られていた己が、道連れの悪戯を施せる力を手に入れ、それを彼女に対して使用した対価のつもりでもある。
彼女が自分を利用するかどうかは、別だけども──……]
(126) 2014/07/14(Mon) 00時半頃