[万里しずくに触れられずに手をひっこめてしまった、その日の夜。
貸出期間を延長してもらって、未だ手元にあるひとりぼっちの幽霊の絵本を、また読み返す。
何度も何度も読み返したところで、ようやく秋野は顔を上げた。
──もう、やめよう。
もう、あの人のところに行くことも、やめよう。
文化祭の企画を成功させて、受験も、どうにかして。
いろんなことを、ちゃんとやろう。
自分が間違っていることぐらい、とうの昔に気が付いていたのだ。
けれど、そこから秋野が手を引くことを決めたのは、どうしようもなく楽しかったあの眩い日々だった。
先に秋野を捨てたのが向こう側なら、いっそ今度は秋野の方から捨ててやれ、って。
そう、思ったはずなのに、どうしてああなってしまったんだろう。
誰かの世界。"ホスト"の世界。
相馬風子のマネキンから流れる血は、まるで"ホスト"が間近でそれを見てきたかのように、ひどく赤い。]
(124) 2015/06/27(Sat) 01時半頃