[>>121命じる声に、丸めた背中がびくりと跳ねた。
冷めた音は己の命すら凍らせるには十分で、無意識に身体の下で隠すように展開していた赤黒い触手が、鋭い刃を形作っていた。捨てられるならば、此処にいる理由も、生きる理由も失せる。
それでも、即座に死を選ぶより、直円の命令が優先された。
恐る恐る、胃の中身を抑えつけながら振り向く。
途端、頬に直円の手が触れた。]
……ッん、……
[汚い、と制する間もなく、唇が重なった。
刃を象った触手はどろりと溶けて、床に吸い込まれる。
口元を覆っていた両手は直円の背中に周り、未だ震える指先が、遠慮がちに着物の生地の上を滑った。
口内を満たしていた不快な味と匂いが、直円の味に書き換えられた。]
…………はぁ、あ、ッ
……直円、さま ……ごめんなさい……
[ひく、と喉をしゃくり上げて、再び双眸が濡れる。
優しい声はいつもの直円のものだが、それでも縋って良いのか迷うように、瞼を伏せた。]
(122) nico 2016/06/20(Mon) 11時頃