[お財布ごそごそあさる間に、頭の上から声がした。
お代なんていらないよ、あれだけ気持ちよく食べてくれたなら、それで十分。そんな女将の笑い声が、財布をあさる手止めさせた。]
……でも。
[日ごろ毎日世話になる、おじさんおばさんお姉さんの家以外で、お代を出さない食事をするのは気が引けて。
それならそうだと、財布でないとこあさり出す。
ポケット、ズボン、ローブの裏側。手を突っ込んで見つけたのは、ひとつの薬袋。]
これで、いい?
[袋にはちいさく『ほたるのくすり』と書いてある。
袋を開けると、中の粉が空気を含んで舞い上がり、やわらかく光る一種の飾り灯り。
実際作ったその日は、ふわふわ夜じゅう、黒猫魔法薬店を照らしたこともあった。
代金替わりに、とあまりのそれをひとつ置いていく。
女将は気持ちよくそれを受け取ってくれ、またおいで、と送り出してくれた。
次来た時は、ほかほかパンケーキで待っててくれる、約束もひとつ。]
(122) 2011/09/27(Tue) 02時頃