[扇子が先生の手の上で軽く音立てるのを聞きながら、忠告にしては諫める色のない言葉に、弧を描いたままの表情ごと頷いた。]
はい、銘じておきます。
(先生に、心配はかけたくない、ので。)
[随分昔にしか知らない父よりは、先生の方が親然と感じられるのは致し方ない事やもしれない。
健勝な母親が当然一番の親であるのは間違いないが、青年からしてこの人は孝行したい人でもあった。
雫に落陽の朱色が移り、時折羽織りに落ちては染みを作った。
同じく“やいばを用いる”身であるのに、武と芸には交わりきれない隔りがあるのも又、仕方のない事だ。>>99
それらの目的が違う以上は、寧ろ当然であるべきか。]
四季折々異なる様相が見える事が。
この国が乙な由縁だと思いますから、ね、
[1年という月日を巡った華が絢爛と咲く頃には、無粋なまでの陽光が焦がしてくる。
そんなものだから、梅雨時の静かな美しさを愉しむ余念もありはしない。]
(121) 2017/06/09(Fri) 17時半頃