[己の指示を聞き入れた後輩に頷き、駆け去っていく姿を一瞥で見送ってから、男は改めて銀に向き直った。
自我の宿らない淀んだ、しかし何処か絶対の美を残したその瞳と、漆黒の瞳とがかち合う。銀は一度僅かに退いてから、尋常を超えた速さで踏み込み、剣を横凪ぎに振るってきた]
……っは、
[男は黒き翼を伸ばし広げ、再びその刃を受けた。この程度の攻撃を防ぐのは、男には容易い事だった。だが、防いだ直後、漆黒から伝わるように左腕がずきりと痛んだ。
その痛みの由は――禁忌たる術で保たれた銀の存在と、禁忌と同意とされた「追放者」なる男の存在と――常ならぬ衝突の故に。男は笑いと苛立ちとが混じったような吐息を零し]
…… 壊す。
真なる死へ……還らせてやる。
[こわす。そう、常の宣言を口にしながら。男は翼となって連なる黒き刃を銀に向けて突き出した]
(117) 2012/08/12(Sun) 00時頃